音素の数と言語の発展、そして「ゔ」の謎

英語と比べると日本語は音素が少ない言語です。母音の音素だけに限っても、日本語は「あいうえお」の5つですが、英語だとメジャーなものだけで18個もあります。さらにいえば、英語に限らず、世界の様々な言語に比べて日本語の音素は少なめです。

大体、英語とドイツ語の音素数が40前後、中国語30前後、スペイン語25くらい、日本語が20くらいとされています。*

ちなみに、言語は有史来、人類の広まりとともに派生していく中で、だんだん音素が減っていく、と考えられています。

世界の504言語の音素数を調べた学者の方もいて、アフリカの言語の音素数が最大、そこから離れるほど減ると。アフリカは人類発祥の地と言われているわけですが、その後人類が(アフリカから見た)辺境に広まるにつれ音素が減っていきます。

そう言う意味では、音素の少ない日本はかなり人類発展のフロンティア。冒険者の血が流れているはずです(理論上)。

以下、世界で最も音素の少ない言語、最も音素の多い言語、そして「ヴ」の謎について書きたいと思います。

音素の少ない言語

音素の数が最も少ないのはPirahã、Rotokas、Hawaiianといった言語とされており、音素数は日本語の半分の10〜12個しかありません。Pirahãはブラジルのアマゾン奥地で約300人が、Rotokasはパプアニューギニアで4000人が話す言語です。

Hawaiianは「アロハ」「マハロ」で皆さんにもなじみ深いかと思います。現在でも2万人がネイティブスピーカーとのこと。

Hawaiianは、4世紀という大昔にポリネシアの島から船を操ってハワイにたどりついたハワイ民族の言語です。移住は幾つかの島々から何度かに分けて起こったようですが、最初はタヒチが出発点の模様です。

加えてポリネシア(含むタヒチ)の人たちは東南アジアから来た、というのが現在のところの定説なので、こんな船旅↓を何千年も前に実行した勇敢な開拓者の皆さん。そして開拓を続けるうちに音素はどんどん減少。

Screen Shot 2012-09-17 at 12.00.11 PM

ちなみに、Hawaiianでは、[d], [s], [z], [t],[ts], [dz], [c], [ʃ], [ʒ], [tʃ], [dʒ], [ɡ], [x]は全てKの音となるとのこと。日本人がLを聞いてもRを聞いても、どちらも「ら」に聞こえるように、Hawaiianで育った人は、ここにあげられたどの音を聞いても「K」と認識するそうです。

例えば、Merry ChristmasはMele Kalikimaka(メレ・カリキマカ)に。

これに比べれば我々日本人の苦労などどうということもありません。

音素が少ない言語では名称が長くなることが多いですが、ご多分にもれずHawaiianでも長い名前のものが多いです。例えば、ハワイの州魚は日本語でモンガラと呼ばれる口の尖った熱帯魚ですが、Hawaiianで呼ぶとHumuhumunukunukuapua'a(フムフムヌクヌクアプアア)。ワイキキからハナウマ湾に行くフリーウェーはKalanianaole(カラニアナオレ)。長いです。(とはいっても、日本語でも7音節の名前はありますが。)

音素の多い言語

一方、一番音素が多いのはアフリカの!Xóõという言語だそうです。110くらい音素があるようです。英語の3倍近くあります。「!Xóõ」という言語の名称からしてどう発音するか全くわかりません。

UCLAのアーカイブより1972年に録音された音声はこちら。

「チェッ」とか「コッ」という感じの音が随所にありますが、雑音ではありません。これが音素。こうした「舌打ち」が音素に含まれているのが特徴です。

アフリカには!Xóõをはじめ、舌打ちを含む言語が複数ありますが、アフリカの外には一つもありません。おそらく、まずアフリカ内で舌打ちの無い言語が派生し、それを話す一団が他の地域に移住、そこからさらに他の言語が誕生したと考えられています。

(こんな貴重な音声アーカイブがインターネットを怠惰に検索するだけで出てきてしまう現代は本当に良い時代です。)

いや、しかし、英語の代わりに!Xóõが世界の覇権を握っていたら、と考えると恐ろしいことです。ハードル高いです。ここはひとつ「英語で良かった」と素直に喜びたいと思います。

ヴの謎

しかし、!Xóõに比べれば少ないとはいえ、英語には日本語の2倍の音素があるので、日本語で一つの音に英語の複数の音が対応するものがたくさんあります。

そして、そのうちなぜか一つだけが、日本語のカナを与えられるという名誉に預かっています。

それは「ヴ」。

日本語の「ブ」は英語だとBuとVu2種類になるわけですが、そのうち日本語から遠い方のVuが「ヴ」なわけです。(ヴは福沢諭吉考案という説もありますが真偽のほどやいかに)。

ですが「ヴ」というカナの創設が日本人の「V」の発音向上に役立っている感じはほとんどありません。英語歴の短い人では「唇をかむ→歯と唇を離してから『ブ』という」みたいになってしまっていることが多く、「唇と歯の間から持続的に擦過音が出る」というVの音を発音できる人はなかなかいません。日本語に無い音にカナ表記だけ持ち込んでも無駄、ということですね

とはいえ、発音できない音の表記を考案するほどこだわるなら、「ばびべぼ」のVバージョンも、あ、い、え、おに濁点をつけて対応させるのが妥当では。さらには、他の日本語:英語=1:多対応の音にもカナを作るべきです。Rは「ら」に○(半濁点)、とかcatの母音は高さを半分につぶした「あ」にして、cutの母音は「あ」の右上に小さなマイナス棒をひくとか。

・・・というのは冗談で、本気で英語を勉強したい人は、そもそもカタカナ表記を忘れた方がよいです。日本語の2倍ある英語の音を、日本語表記で考えることは、正しい英語の音を認識していく上で自殺行為です。「脳内の音素のバケツ」を作るのに、複数の英語の音に対して一つのカタカナを連想してしまうと、どうしてもそれが一つのバケツになってしまいがちです。

cat→キャット→母音は「ア」の音だけど、その中でもæ、とか

cut→カット→母音は「ア」の音だけど、その中でもʌ

みたいに考えると、æとʌを耳で聞き分けられるようになりません。いつまでたっても、「どちらもア」としか認識できず。さらには、「母音と子音を切り離して聞く」という、カタカナが逆立ちしてもできない技も英語では獲得する必要があります。

なんとかカタカナを忘れるよう頑張ってください。

 

 

 * 日本語の「あー」と「あっ」のような音の長さや、中国語の4声のような音の高低変化は独自音素としてカウントしません。それもいれたら日本語はあと10増えますね。「あ」「あっ」「あー」を別カウントするので。中国語は、高低も考慮に入れたらほぼ4倍(広東語だと6倍)になるので、ものすごいことになりますが。

 

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